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詩「親ゆえの闇」 作・朗読:藤川幸之助

親ゆえの闇

藤川幸之助

また今朝も新聞にあった
介護中の母を息子が殺したと
母が言うことを聞いてくれず
介護疲れから暴力をふるったと
母殺しを決して美談で語ってはならぬ
しかし、私には指差して非難はできぬ
介護に潜むどす黒い闇
親ゆえの闇

食事をなかなか飲み込めず
一時間も食事が続いたかと思うと
今度は立ってどこかへ行こうとする母に
私は苛立って
「あんなにしっかりしていた
母さんがどうなっちまったんだ
しっかりしてくれ!」
母の両手首をきつく握りしめ
座らせて何度も何度も叱った

驚いた母はのどに唾液を詰まらせて
息ができなくなって咳き込んだ
背中をさすりながら
このまま母が死んでくれれば
母も私も楽になれるとふと思ってしまった

布団に横たわる母を寝かしつけた
両手首に青あざがあった
背中は見ずに電気を消した
介護に潜むどす黒い闇
親ゆえの闇
明日こそは母へ優しくしようと
毎日毎日自分を責めながらも
この闇の入り口に
私は立ったことがある

詩集『支える側が支えられ生かされていく』
致知出版・2020年
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