詩「落葉樹」
◆もうすぐ春が来て、桜が咲く。しっかりと自分自身を見つめることができた冬であったであろうか。◆今日は詩「落葉樹」を。with Leica Q2落葉樹 藤川幸之助 落葉樹が冬に葉を落とすのは自分自身が生きていくためだそうだ力つきて丸裸になるのではない 自分自身というものを青い空にすかしてみる一つ一つの枝の...
◆もうすぐ春が来て、桜が咲く。しっかりと自分自身を見つめることができた冬であったであろうか。◆今日は詩「落葉樹」を。with Leica Q2落葉樹 藤川幸之助 落葉樹が冬に葉を落とすのは自分自身が生きていくためだそうだ力つきて丸裸になるのではない 自分自身というものを青い空にすかしてみる一つ一つの枝の...
私の中の母 藤川幸之助母よ認知症になってあなたは歩かなくなったしかし、私の歩く姿にあなたはしっかりと生きている 母よあなたはもう喋らなくなったしかし、私の声の中にあなたはしっかりと生きている 母よあなたはもう考えなくなったしかし、私の精神の中にあなたはしっかりと生き続けている 私のこの身体も私...
◆詩「生きる」ではなく、詩「ただ生きる」だ。「未発表の詩だから掲載したら」と何気なく渡された詩だったが、私の原稿をしっかりと読み込んで、私の詩集『満月の夜、母を施設に置いて』(中央法規出版・2008年)の「あとがき」のために書き下ろされた詩だった。◆認知症の母が亡くなって作った詩集『徘徊と笑うなかれ』(中央...
◆原稿の管理が悪い私にはよくあることだが、若い頃の原稿がごっそりと出てきた。三十数年前に書いた子ども向けの詩の原稿なのだが、どれもよく覚えていない。読み進めていくと自分なりに納得して書き上げたつもりなのだが、どれもこれも赤を入れたくなる。三十数年経ったからと言って、決して詩の腕は上がっているわけではないので...
返す 藤川幸之助自分が死ぬわけでもないのに何でこんなにつらいのだろうか苦しそうな母を見るともう死なせてあげたいと思ういやずっと生きていてほしいと願う母の生を見守っていたいと思いながらも母の死に目を背けたい気持ちになる 認知症になって二十四年母さん本当のところを...
ただ月のように 藤川幸之助ただ月のように認知症の母の傍らに静かに佇む何かをしているように何にもしていないように見つめているようで見つめられているようで ただ月のように母の心に静かに耳を澄ます聞いているように聞かれているように役に立っているようで役に立っていないようで ただ月のように母の...
◆今日は詩「戦争」を。戦争 藤川幸之助先の戦争で重爆撃機に乗っていた父が「戦争に勝ち負けなどなく戦争それ自体が負けなんだ」と、自分が豆粒のように映る学徒出陣のテレビ画面を見つめてぽつりと言った ひとつながりのひとつの海を違う岸辺から見つめているだけだというのに自分の体に線を引き自分の...
俯瞰 藤川幸之助母がなくなって行かなくなった場所がある母がなくなって通らなくなった道がある母がいなくなって会わなくなった人たちがいる母がなくなって歌わなくなった歌もある そして、母がいなくなって毎日上るようになった坂もあって上って見下ろすと私の住むところも母の入院していた病院もすっかり俯瞰できるのだ 母...
◆「一つもぎ 一つ先見ゆ 葡萄かな 幸之助」これは、去秋に葡萄を送ってくれた叔母へのお礼の葉書に書いた俳句だ。左手でつまんで目の前にぶら下げ、右手でもいで食べていると、葡萄の向こう側が少しずつ見えてくる。◆もう、この私は葡萄を三分の二ほど食べた頃か。SNSで文を書かないと死んでいるのではないかと問い合わせが...
◆「海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がいる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」*1三好達治 の詩集『測量船』の詩「郷愁」の一節である。◆「海」という文字の中には、確かに「母」という文字が入っている。また、フランス語で、「母」はmère(メール)と表記し、「海」はmer(メール)と...