エッセイ

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双六の母に客来てばかりをり◆詩「双六」

◆商売をやっていた父母は、年末年始は歳末の売り出しやら初売りの準備やらでとても忙しく、幼い頃一緒にゆっくり過ごした覚えなどない。私は出入りするお客をよそに、一人でテレビを見たり本を読んだりした。◆ほったらかした息子に申し訳ないと思ってか、初売りが一段落した頃に母が一緒に双六(すごろく)をしてくれた。「双六の...

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追悼◆詩人・谷川俊太郎◆「じゃあねえ」はまた会う言葉

◆今日の写真は詩人の谷川俊太郎さんとの写真だ。黒のポロシャツを着て、顔をぐちゃぐちゃにして喜んでいるのが私。詩集『満月の夜、母に施設に置いて』(中央法規・2008年)を共著で作った。その詩集完成の打ち上げの食事会でのひとこまだ。この時、「お母さんが亡くなられた後、藤川さんがどんな詩を書くのか楽しみだな」と谷...

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迷うことは深く知ること◆詩「本当のところ」

◆カーナビがあるので迷わなくなったが、スマートに目的地へ着ける分、その土地のことを深く知ることもなくなった。◆私はとても方向や方角の感覚が鈍く、一度迷うと同じ道をグルグル回ったり、反対方向に曲がって目的地から遠く離れていったりだ。しかし、そのおかげで思いがけなく美しい海にたどり着いたり、その土地の人の優しさ...

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老いとは課題なのだ◆詩「最期の言葉」

◆京都で哲学者の鷲田清一さんと心理学者の小沢牧子さんと私とで、公開の鼎談をしたことがあった。その時の、鷲田さんの言葉。「年を取るということは、一人でできることがどんどん減り、自分ではどうにもならないものが増えてくるという感覚。老いの感覚は深く人間に問いかける。老いは問題ではなく、課題なのだ」と。◆母の病気を...

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入れ替わる◆詩「この銀河の片隅で」

◆赤ん坊の私のオムツを、母もこんなふうに替えていたんだろうなあと、母のオムツを替えながらいつも思っていた。徘徊する母の手を引いて歩きながら、そういえば幼い私は人前に出ると決まって母の手を握って離さなかったなあと、思い出が頭をよぎった。◆何度も繰り返される訳の分からない母の話に私はいつもいつも苛立ったけれど、...

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海容◆詩「静かな長い夜」

◆「海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がいる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」*1三好達治 の詩集『測量船』の詩「郷愁」の一節である。◆「海」という文字の中には、確かに「母」という文字が入っている。また、フランス語で、「母」はmère(メール)と表記し、「海」はmer(メール)と...