BLOG「月のように生きる」

◆心臓の病を患っていた父は、「おれの最後の大切な仕事だ」と言って、命がけで母の介護をした。母を支えたのは父だったけれど、父もまた認知症の母に生き甲斐を与えられ、母に生かされていたようにも思うのだ。◆詩人の谷川俊太郎さんは、この詩について「僕は「誠実なる生活」とお父様がノートに書いていたっていうエピソードに感動しました。(中略)他者の存在によって自分が変わっていくということは、すごく素敵なことです。」1と、2008年の私との対談で語った。1『満月の夜、母を施設に置いて』(中央法規)

詩「領収証」
    藤川幸之助
父は
おしめ一つ買うにも
弁当を二つ買うにも
領収証をもらった
そして
帰ってからノートに明細を書いた
「二人でためたお金だもの
 母さんが理解できなくても
 母さんに見せないといけないから」
と領収証をノートの終わりに貼る父
そのノートの始まりには
墨で「誠実なる生活」と父は書いていた

私も領収証をもらう
そして母のノートの終わりに貼る
母には理解できないだろうけれど
母へ見せるために
死んでしまったけれど
父へ見せるために
アルツハイマーの薬ができたら
母に飲ませるんだと
父が誠実な生活をして
貯めたわずかばかりのお金を
母の代わりに預かる

母が死んで
父に出会ったとき
「二人のお金はこんな風に使いましたよ」
と母がきちんと言えるように
領収証を切ってもらう
私はノートの始めに
「母を幸せにするために」
と書いている
『支える側が支えられ
   生かされていく』致知出版より
©FUJIKAWA Konosuke
【詩・文・写真】藤川幸之助

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