詩「ただ月のように」
ただ月のように
藤川幸之助
ただ月のように
認知症の母の傍らに静かに佇む
何かをしているように
何にもしていないように
見つめているようで
見つめられているようで
ただ月のように
母の心に静かに耳を澄ます
聞いているように
聞かれているように
役に立っているようで
役に立っていないようで
ただ月のように
母の命を静かに受け止める
受け入れるように
受け入れられているように
愛しているようで
愛されているようで
ただ月のように
ただそれだけでいい
何かをするということではない
何かをしないということでもない
することとしないことの
ちょうど真ん中で
することとされることが交叉する
ただ月のように
ただそれだけでいい
◆自選・藤川幸之助詩集
【支える側が支えられ 生かされていく】より
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©FUJIKAWA Konosuke
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◆エッセイ集
「母はもう春を理解できない
~認知症という旅の物語~」
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