詩「きはきづく」

◆若葉の美しい季節になりました。今日は樹の詩をどうぞ。【写真・詩*藤川幸之助】

言葉5-001

きはきづく
          藤川幸之助
きはきづく
このせかいで
いちばんおおきないきものは
このじぶんだと
きはきづく

きはきづく
ぞうでもくじらでもない
かげがいちばんおおきいのも
このじぶんだと
きはきづく

きはきづく
このせかいで
いちばんふるいいきものも
このじぶんだと
きはきづく

きはきづく
おじいさんでもおばあさんでもない
きのまえでひとはうまれそだち
おいしんでゆくくりかえし
きはきづく

よるきはひとりたたずむ
じぶんのかげよりおおきな
よるのかげにつつまれて
ふゆきはひとりたちつくす
じぶんよりおおきな
ふゆのちんもくにつつまれて
はるきはひとりめをさます
ことりのさえずりのなか
じぶんからめぶくちいさなおとがする

きはきづく
このせかいで
いちばんわかくてあたらしいのも
このじぶんなんだと
きはきづく
           2015/05/05書き下ろし
◆facebookの管理人さんに再三お知らせいただいていますが、5月20日(水)午後1時05分~のTV番組(ハートネットTV・あなたの中の私を失う時~認知症の母を詠む~詩人・藤川幸之助)再放送があります。お時間があればご覧ください。

詩「四つ葉の幸せ」

◆昨日、公園のイスの上にシロツメクサの花冠の忘れ物。クローバーの季節です。三つ葉のクローバーの中に四つ葉のある確率は1/10,000だと聞いてから、私は四つ葉のクローバーを探す意欲を失っていましたが、ギネス認定の世界記録のクローバーは56葉とのこと、この記録の確率を考えると四つ葉ぐらい探してみようかなという気にもなります。今日は『まなざしかいご』(中央法規出版)から詩「四つ葉の幸せ」を。【詩・コメント・イラスト*藤川幸之助】

四つ葉さがし
四つ葉の幸せ
            藤川幸之助
四つ葉のクローバーは
見つけると幸せが訪れるという。
小さい頃から
いくつもいくつも
四つ葉のクローバーを見つけては
母がしおりを作ってくれたが
幸せはそうやすやすとは訪れなかった。

幸せとは訪れるのではなく
心の中に見つけるものだ。
そう気づいて
四つ葉のクローバーを見つけるように
心の中に幸せを見つけ続けた。
認知症の母との一日一日の中でも。

クローバーについては続きの話がある。
五つ葉は金銭上の幸せ。
六つ葉は地位や名声を手に入れる幸せ。
七つ葉は九死に一生を得るといったような
最大の幸せを意味すると。
五つも六つも七つもいらないなあと思う。
四つ葉で十分だと思う。

母のしおりには言葉が添えられている
「四つ葉を手にすることより
 四つ葉を見つけることを楽しみなさい」と。
「四つ葉」を「幸せ」と置き換えて
母の言葉を読んでみる。
           『まなざしかいご』(中央法規出版)
◆facebookの管理人さんに再三お知らせいただいていますが、5月13日(水)のTV番組(ハートネットTV・あなたの中の私を失う時~認知症の母を詠む~詩人・藤川幸之助)に出演します。お時間があればご覧ください。

補完*詩「この手の長さ」

◆母の介護を始める前は、母の誕生日も知らなかった。自分の生活や仕事のことばかりを考えていた。母の事なんて考えたことがなかった。◆しかし、父の遺言で嫌々ながらも母の介護を続けていくうちに、日常や忙しさに隠れて見失っていた母との絆が少しずつ見えてきて、この母の介護の経験は私の心や人生に足りないものを補完してくれる経験ではなかろうかと思った。母の存在が私の人生を補い、私を一人前の人間にしてくれているのではと。その時に作った詩が、今日の「この手の長さ」。◆facebookの管理人さんに再三お知らせいただいている5月13日のTV番組(ハートネットTV・あなたの中の私を失う時~認知症の母を詠む~詩人・藤川幸之助)でも朗読予定です。

2014-02-05 15.25.56
この手の長さ
          藤川幸之助

背中のあたりがかゆくて苦しんでいると
「一人では
 何でもかんでもできないように
 手はちょうどいい長さに作ってあるのよ」と母は言って
私の背中の手の届かないあたりを
かいてくれた

そんなに言っていた母も認知症になり
母一人では何にもできなくなった
母一人では渡れない川を
二人で渡りきろう
母一人では登れない山を
二人で越えよう
人が孤独にならないように
人が愛で引き合うように
人が人を必要とするように
人が傲慢にならないように
この手をこのちょうど良い長さに
作ってあるに違いない
私にもとうてい一人では
できないことがある
できない二つのことが
母と私とで
できる二つのことになる日が
来るのかもしれない

私の人生の地図の一部が
母の中にあり
母の人生の地図の一部が
私の中に
きっと潜んでいるに違いない
   『まなざしかいご』(中央法規出版刊)

Less is more.*詩「細い道」

◆Less is more.この言葉は、ドイツ出身の建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉。ミースは、画家のパウル・クレーが教鞭をとったバウハウス(美術と建築の総合的な教育を行った学校)の校長も務めた。そのまま訳すと「より少ないことは、より多いこと」となり、何のことかさっぱり分からなかった。◆ある日、時代劇を見ていたら、長屋の安兵衛さんが病気になった。長屋中は大騒ぎで、ある者は戸板で彼を運び、ある者は医者の元へ走り、ある者は彼の手を握り励ましていた。人と人との繋がりの中での心通う豊かさをTVドラマの出来事ではあったが感じた。◆現在ならば電話一本で救急車が来て、誰にも迷惑をかけず病院へ行けるが、江戸時代はそうはいかない。不便さ故に、乏しさ故に人と人とのつながりが必要だった。この現代は、便利さ故に、豊かさ故に人と人とのつながりが見えづらくなった時代なのだ。◆Less is more.「より少ないことは、より豊かなこと」という訳でどうであろうか。物質的な豊かさや便利さに隠れて見えなくなってしまっている人と人との繋がりや心の豊かさを、もう一度見つめ直す時が来ていることを、この言葉は教えてくれているようにも思う。◆今日は詩「細い道」をどうぞ。【詩・エッセ・イラスト*藤川幸之助】

細い道
  藤川幸之助
この道を通るとき
人と人とはゆずり合う
細く一人が通るのに
やっとの広さだから

そして、顔を見合わせ
人と人とは挨拶を交わす
この道が細い道でよかったと
すれ違う人を待ちながら
時には待たせながら
思うようになった

便利さ故に忘れていたこと
不便さ故に保たれてきたこと
人に向けられた日毎の
ささやかな思いが
この道を細いままにした

静かに交わされる
言葉と言葉の間を
波音が優しく通り過ぎてゆく
私は毎朝海沿いの
細いこの一本の道を通る
           2014.7.11書き下ろし

◆お時間があればご覧ください。
NHK Eテレ(教育テレビ)
ハートネットTV
リハビリ・介護を生きる
あなたの中の私を失う時
~認知症の母を詠む~
詩人・藤川幸之助
◆放送日時
本放送:5月13日 20:00~20:29
再放送:5月19日13:05~13:34

天国への階段

詩「闇(やみ)」◆TV出演のお知らせ

今日は【TV出演のお知らせ】と写真詩集「命が命を生かす瞬間(とき)」(東本願寺出版)より「闇(やみ)」という詩「手帳」のリライト作品を掲載します。

出演のTV放送があります。
番組タイトルと放送日時です。
◆NHK Eテレ(教育テレビ)
ハートネットTV
リハビリ・介護を生きる
あなたの中の私を失う時
~認知症の母を詠む~
詩人・藤川幸之助
◆放送日時
本放送:5月13日(水)20:00~20:29
再放送:5月20日(水)13:05~13:34

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「闇」    藤川幸之助

同じ話ばかり繰り返す母に苛立だった
自分の話ばかりするな!
その話はさっき聞いた!
手で母の口をふさぐときもあった

私から叱られるものだから
母は黙って、聞くふりをして
周りの顔色を見ていた
そして、周りが笑うと
母は一緒に声を立てて笑った
周りの話なんか分かりもしないのに
おかしくも楽しくも何ともなかったのに

数多の忘れてしまったこと
その深い闇に包まれて
ほんの少しの覚えていることが
母の心にはぽつんと灯っていて
足下だけが仄かに明るくて

話に夢中になっていると
母はその場からいなくなっていた
探すと、三面鏡の前で手帳を広げていた
その手帳には
自分の呼び名である「お母さん」と
自分の名前、家族の名前と年齢などが
びっしりと書かれていて
母はそれを鉛筆でなぞりながら
忘れないように何度も何度も
繰り返し唱えていた
    「命が命を生かす瞬間(とき)」(東本願寺出版)より

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