◆拙著の中に、子ども達にも認知症を感じてもらいたいと作った絵本がある。2006年に出版した、絵本『大好きだよ キヨちゃん。』(クリエイツかもがわ)だ。孫の「こうちゃん」と認知症である祖母の「キヨちゃん」との出来事を描いた絵本だ。◆母が認知症になったのは私が30歳台の時。まだ若い私は母の言動に驚き、苛立ち、哀しみ、右往左往した。教員をしていた私は、これから超高齢化社会を支えていく子ども達のことが心配になった。大人になったとき、認知症という病気のことを少しでも知っていたら、この病気を受け入れる心の準備だけでもできるのではないか。◆私の経験を子ども達に伝えたいと思った。この絵本のカバーには「自分にとって大切な人の記憶が薄れていくとき その大切な人のために ぼくらはいったい何ができるのだろうか? 何もできなくても こうちゃんのような理解しようとする心と キヨちゃんを見つめる深い「まなざし」があれば たぶん大切な人は幸せだと思う。」と書いている。◆そして、絵本の帯には『痴呆を生きるということ』の著者の小沢勲さんが「私が大大大好きな詩を書く人がつくった絵本」と書いてくださっている。今日はその絵本『大好きだよ キヨちゃん。』(クリエイツかもがわ)の絵と子ども達に向けて書き下ろした認知症の詩をどうぞ。
びょりぎょりぎぎぎ
藤川幸之助
ばあちゃんは
びょりぎょりぎぎぎ
じょりじょりじじじ
ごにょごにょにょにょにょという
ときどきめがさめたように
「めしまだか」という
「よしお こっちこい」
とおとうさんのなまえでぼくをよんで
「ぜいしゃちるーぶる つばしーば」
とくりかえす
ろしあごで
「じゅうえんです ありがとう」
といういみらしい
ばあちゃんはちいさいころ
まんしゅうでにんぎょうをうっていた
ばあちゃんのてをうしろからそっとにぎると
びょりぎょりぎぎぎというので
「ばあちゃん うれしいのか?」
ときくと
じょりじょりじじじと
ばあちゃんはいつもくびをたてにふる
「ばあちゃん かなしいのか?」
ときいても
「ぼくは おりこうか?」
とふざけても
「こづかい いちおくえんちょうだい」
とてをだしても
「ばあちゃん つらくないか?」
とせなかさすっても
ごにょごにょにょにょにょと
ばあちゃんはくびをたてにふって
ぼくのてをつよくにぎったまま
またどこかとおくへいこうとする
未刊詩集『おならのいきがい』より