不便さ故に保たれてきたこと*詩「細い道」

◆日毎歩く海沿いの細い道がある。一人が通れるほどの細い道なもんだから、行き交う人々は待ちつ、待たれつ、交互に通ってゆく。この情景を詩に書こうと1年ほど前から思っていたが、待てども待てどもなかなか私の心の中で詩が生まれてくれない。◆そんな時、友人が列車で往復4時間半をかけて、職場へ通いはじめたと聞いた。不便だけれど、この友人のこの4時間半は豊かな時間だなあと思った。そして、「便利さ故に忘れていたこと/不便さ故に保たれてきたこと」というフレーズが浮かんで、詩が出来上がった。今日はその詩とその詩にとても相性が良さそうな拙文があるので、一緒に読んでいただきたい。◆◆◆時代劇を見ていたら、長屋の安兵衛さんが病気になった。長屋中は大騒ぎで、ある者は戸板で彼を運び、ある者は医者の元へ走り、ある者は彼の手を握り励ましていた。不便さ故に人と人とのつながりが必要だった。現在ならば電話一本で救急車が来て、誰にも迷惑をかけず病院へ行ける。便利さ故に人と人とのつながりが見えなくなってしまった。◆人と人とのつながりが薄くなったこの社会の中で、超高齢化とか、認知症の介護とかの問題は、この社会において足かせのようなものだと捉えられがちであるが、実は便利さによって隠れて見えなかった人と人とのつながりを取り戻す良い機会ではないかと私は思うのである。どんなに便利な社会になっても、自分一人では乗り越えられないことがあり、弱い自分に気づくこと。これが、コミュニティー再生の鍵だと思うのだ。(詩・文・写真=藤川幸之助)

細い道
  藤川幸之助
この道を通るとき
人と人とはゆずり合う
細く一人が通るのに
やっとの広さだから

そして、顔を見合わせ
人と人とは挨拶を交わす
この道が細い道でよかったと
すれ違う人を待ちながら
時には待たせながら
思うようになった

便利さ故に忘れていたこと
不便さ故に保たれてきたこと
人に向けられた日毎の
ささやかな思いが
この道を細いままにした

静かに交わされる
言葉と言葉の間を
波音が優しく通り過ぎてゆく
私は毎朝海沿いの
細いこの一本の道を通る
        2014.7.11書き下ろし
天国への階段