24年間書きつないだ認知症介護の詩◆詩集『徘徊と笑うなかれ』発売!

◆母が認知症になって亡くなるまでの24年間、母の詩を書きつないできました。そして、この詩集『徘徊と笑うなかれ』(中央法規)で、認知症の母の詩集は完結となります。父の遺言で仕方なくはじめた、認知症の母の介護でした。その苦しさから逃げることばかりを考えました。でも、あの苦しみや悲しみは無駄ではありませんでした。言葉のない母が、私に問いを投げかけ続けました。命とは何か。生きるとは何か。死とは。老いた母がその存在から私に問いかけ続ける日々でした。是非ご一読を!
この詩集から、詩「愚かな病」と詩「徘徊と笑うなかれ」をどうぞ!
Cover-表-1
◆本のカバーを開くと分かりますが、この本の表紙に描かれている母は、実は幼い頃の私を見つめています。そして、私から花を受け取って、嬉しそうな母の横顔が裏表紙に描かれています。(絵・岡田知子)

【愚かな病】
        藤川幸之助
むかしむかしのこと
認知症を痴呆症と言っていた
「痴呆」を私の辞書で引くと
「愚かなこと」と出る
母の病気は愚かになっていく病気らしい

この病気を抱えながら二十一年
必死に生きてきた母のその一日一日
何も分からないかもしれない
何もできないかもしれないけれど
母は決して愚かではない

そんな母の姿を受け入れられず
ウロウロするなと
何度も何度も苛立ち
訳のわからないことを言うなと
繰り返し叱り
よだれを垂らす母を
恥ずかしいと思った
私の方がよっぽど愚かなのだ

忘れ手放し捨てながら
母は空いたその手に
もっと大切なものを
受け取っているにちがいない
その大切なものを瞳に湛えて
静かに母は私を見つめている
詩集『徘徊と笑うなかれ』(中央法規出版)

【徘徊と笑うなかれ】
         藤川幸之助
徘徊と笑うなかれ。
母さん、あなたの中で
あなたの世界が広がっている
あの思い出がこの今になって
あの日のあの夕日の道が
今日この足下の道になって
あなたはその思い出の中を
延々と歩いている
手をつないでいる私は
父さんですか
幼い頃の私ですか
それとも私の知らない恋人ですか

妄想と言うなかれ。
母さん、あなたの中で
あなたの時間が流れている
過去と今とが混ざり合って
あの日のあの若いあなたが
今日ここに凛々しく立って
あなたはその思い出の中で
愛おしそうに人形を抱いている
抱いている人形は
兄ですか
私ですか
それとも幼くして死んだ姉ですか

徘徊と笑うなかれ。
妄想と言うなかれ。
あなたの心がこの今を感じている
詩集『徘徊と笑うなかれ』(中央法規出版)より

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