◆太陽は我々に光を届けて、芽吹かせ、花を咲かせ、実を実らせていく。それに引き替え、月は直接的に何の役に立っているというわけでもなく、ただ登り知らぬ間に沈んでいく。◆でも、満月を見つめていると、目には見えない不思議な力でこの月に支えられているのではないかと感じることがある。夜となく昼となく、空のどこかで自分の命に寄り添ってくれているのではないかと感じるときもある。誰かの愛に見守られているように。◆何かを「すること」だけが、介護だと思っていた時があった。その頃は、オムツを替えたり、食事をさせたり、薬を飲ませたりという「すること」に追われ、それをこなすことばかりに時間がとられていた。何もしないで母に寄り添い母の話を聞いたり、母と向き合ったりすることを忘れてしまっていた。◆「すること」や「しなければならないこと」に隠れて、大切なことが見えなくなってしまっていた時だった。そんな時、月を見つめて思い至ったのだ。何もせず、そばに寄り添い、お互いの存在を感じあうこと。これもまたとても重要な介護の役割ではないかと。今日の詩は、そんな時に書いた詩「ただ月のように」。
「ただ月のように」
藤川幸之助
ただ月のように
認知症の母の傍らに静かに佇む
何かをしているように
何にもしていないように
見つめているようで
見つめられているようで
ただ月のように
母の心に静かに耳を澄ます
聞いているように
聞かれているように
役に立っているようで
役に立っていないようで
ただ月のように
母の命を静かに受け止める
受け入れるように
受け入れられているように
愛しているようで
愛されているようで
ただ月のように
ただそれだけでいい
何かをするということではない
何かをしないということでもない
することとしないことの
ちょうど真ん中で
することとされることが交叉する
ただ月のように
ただそれだけでいい