初心忘るべからず◆詩「家族」

◆「初心忘るべからず」は、世阿弥の『花鏡』の中の言葉。読んでみると「初志を貫徹すること」とはすこしばかり違うようだ。初心者という言葉からも分かるように、初心とは「物事を習い始めの状態」のこと。つまり、物事を習い始めた未熟な時、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら身につけたことを忘れるなということのようだ。◆この言葉の後には、「時々の初心忘るべからず」「老後の初心忘るべからず」と続く。詩人という私の生業に当てはめると、いくつになって年相応に書ける作品というものがあって、その時々に自分自身の未熟さを受け入れながら、慢心することなく挑み作品を作り続けていくと言うことか。◆今日は、詩を書き始めた十代の頃の詩を2篇。
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家族
         藤川幸之助
 初冬
 一番暖かそうな
 石をえらんで
 こしを下ろした。

 大きな石の間に
 小さな石
 小さな石の間に
 もっと小さな石
 みんな静かに寄りそい
 海をながめている。

 投げるはずだった小石を
 もとの場所へもどす 
 できるだけ正確に
 できるだけ静かに。

やわらかなまっすぐ  
        藤川幸之助
 心と
 言葉が
 ぴったりの時
 言葉はまっすぐ
 まっすぐは
 人を倒してまで
 突き進もうとするけれど
 やわらかな心から出た
 まっすぐは
 やわらかなまっすぐで
 相手の心の形に合わせて
 大きくなったり小さくなったり
 いろんな形に変わったりしながら
 またまっすぐになって
 進んでいく
 心と
 言葉が
 ぴったりの時