Life is All Like That.◆詩「お襁褓」

◆このところ大橋トリオのCDばかり聞いていたので、今日は久しぶりに渡辺貞夫を朝から聞きながら仕事をした。「SADAO 2000」渡辺貞夫と私の大好きなベーシスト リチャード・ボナとの共同プロデュースによるアルバムだ。その中の「Life is All Like That.」という曲が流れたとき、いろんな思い出が頭をよぎった。このアルバムが出たころは、父が亡くなり母の介護を始めて2年、一番私が混乱していたころだった。今日掲載の詩「お襁褓(むつ)」の中にも書いているように、いつもいつも「こんなことしてる間に仕事がしたいと焦せった/これでは自分の人生は台無しだと悲しかった/こんなことがいつまで続くのかと不安になった」。◆詩人になるという夢をかなえるために、とにかく詩が書きたかった。そう思っても、母の介護と教師をしながらではなかなか詩を書く時間なんて見つからなかった。絶望的だった。そんな時、このアルバムを聞いていたらのんきな曲が流れはじめた。タイトルを見ると、「Life is All Like That.」。「人生そんなもんさ」この言葉にふれた時、力がふっと抜けた。詩を書けないならしょうがない、人生とはそういうものだと。詩を書くのをやめた。まずは母の世話をしっかりやっていこうと思った。詩人になる夢をきっぱりとあきらめた。しかし、それからの認知症の母と向かい合ってきた日々が、私に何と多くのことを教えてくれたことか。そして、何と多くの詩が生まれたか。母の介護を拒ばみ続けていたら、詩人という夢は決して花開かなかったにちがいない。◆臍を固めて生きることで、見えてくる道がある。同時期に読んだ『それでも人生にイエスと言う』にはこうも書いてあった。「あなたがどれほど人生に絶望したとしても、人生があなたに絶望することは決してない。*山田邦男・松田美佳訳」第二次大戦中、ナチス強制収容所から奇蹟的に生還したビクトール・フランクルの言葉だ。私がどれほど深い絶望の縁に立とうとも、人生は私を決して見捨てなかった。今しみじみとこの言葉をかみしめる。◆今日の写真は、この体験から生まれた言葉を載せた新刊『命が命を生かす瞬間(とき)』のポストカード。詩も同著より「お襁褓」。藤川幸之助facebook

『命が命を生かす瞬間』より

お襁褓(むつ)

藤川幸之助
はじめて母のおむつを替えた
狭い便所の中で母は立ったまま
左手の指を口にくわえ
しゃがんだ私を見下ろしていた

おむつをあけると柔らかいウンコがたっぷり
母がそれを触ろうとするので
「母さん、しっかりしろ!」と怒鳴ると
母は驚いてヨダレを垂らしはじめ
私の頭に次から次にヨダレが垂れてきた
私がひるんだすきに母はウンコを触った
「母さん」とあきれて言うと
呼ばれたと勘違いして
ウンコのついた手で私の肩を触ってきた
もううんざりの私は
母のおむつをウンコごと床に投げつけた

おむつを漢字では
衣偏(ころもへん)に強く保つ
心の辺も強く保つと
いつもいつも自分に言い聞かせた

はじめて母のおむつを替えた日
こんなことしてる間に仕事がしたいと焦あせった
これでは自分の人生は台無しだと悲しかった
こんなことがいつまで続くのかと不安になった
母の手を引いてトイレを出ると
母は気持ちがいいのか満面の笑みで
周りの人たちに愛嬌を振りまいていた
なぜか私も一緒になって笑って歩いた
(『命が命を生かす瞬間(とき)』東本願寺出版より)
藤川幸之助facebook http://www.facebook.com/fujikawa.konosuke