音楽家・福山雅治の隠し味◆詩「身体の記憶」

◆自宅近くに「長崎スタジアムシティ」ができた。そのピーススタジアムのこけら落としで福山雅治さんのコンサートがあった。俳優の福山雅治しか知らない私は、妻のお供で参加したのだが、音楽家・福山雅治に心をわしづかみにされてしまった。こんなに魅了されるのは不思議だった。◆楽曲「知覚と快楽の螺旋」のようなビートがきいたソリッドで切れ味の良い音と、楽曲「道標」のような福山さんの洗練された歌詞を優しいメロディーに乗せた心地よい音が交互にやって来て、音楽を受け入れる私のレセプターの形にピッタリとはまっていったという感じだった。どこかで味わったことのある雰囲気や魅力でもあった。◆公演の最後に福山さんがメンバー紹介をした。バンドマスターとして紹介されたのが井上鑑さんだった。私と同世代の人には、寺尾聰さんの曲「ルビーの指環」が入ったミリオン・セールス・アルバム「Reflections」や大滝詠一さんの曲のアレンジャーとしてその名を耳にした方もおられるかもしれない。◆20代の頃、井上鑑さんのレコード『PROPHETIC DREAM』をカセットに録音して何度も何度も聞いた。井上さんのアレンジだと知ると手当たり次第に楽曲のEPレコードを買い求め聞いて、真似て曲を作った。この時感じていた井上鑑さんのアレンジの味わいや雰囲気を、公演の福山雅治さんの楽曲の中に「隠し味」として私は感じとっていたのかもしれない。目立たぬ程度にごく少量加え、全体の味を引き立たせることを「隠し味」と言うが、アレンジャー・井上鑑に気がつかぬまま音楽家・福山雅治に魅了された素晴らしいコンサートだった。◆特に楽曲「道標」は胸に響いた。蜜柑農家をされていたお祖母さんのことを歌った歌だとファンの方に教えてもらった。今日の詩は「身体の記憶」。with SONY-DSC-RX1RM2

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身体の記憶

藤川幸之助

この季節になると
とにかく認知症の母は汗をかく
母の身体を毎日のようにふく
この母の身体には
私の幼い頃の縮図が描かれている

もう歩くことを忘れた足が
母の体からすっと伸びている
臆病な私はいつもこの足にしがみついた
もう抱きしめることを忘れた腕
その腕から分かれた五本の指は
指し示すことも握ることもしない
この手にどれだけ励まされ叱られ
抱きしめられたか
父に内緒でもらった家出の金も
この手が渡してくれた

赤ん坊の私が乳を吸う時
いつも触ってたのでちぎれそうだと
母がよく話した胸のホクロは
まだちぎれずにしっかりと残っている
病弱な私をこの背中に背負って
夜中、母は何度病院へかけたか
このヘソとつながって
この世界へ私は生まれてきた
母の口は何も語らないが
母のこの身体は私の幼い頃を雄弁に語る

着替えさせたパジャマやタオルを
毎日のように洗濯し
毎日のようにたたむ
おれは忙しんだよと愚痴りながらも
せずにはいられない
母の身体には
私の幼い頃の縮図が眠っている

©FUJIKAWA Konosuke
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