迷うことは深く知ること◆詩「本当のところ」

◆カーナビがあるので迷わなくなったが、スマートに目的地へ着ける分、その土地のことを深く知ることもなくなった。◆私はひどい方向音痴で、一度迷うと同じ道をグルグル回ったり、反対方向に曲がって目的地から遠く離れていったりだ。しかし、そのおかげで思いがけなく美しい海にたどり着いたり、その土地の人の優しさに触れたりと、その土地のことを深く知り得るのだ。◆認知症の母の医療の選択においても、私はいつも迷いに迷った。そんな私に医師が「誰でも迷うのですから、迷っていいんですよ」と言った。それ以来、私の「迷い」はこの何気ない医師の言葉に支えられていたように思う。◆迷った方が道のりは長く、その分学ぶことも多い。迷うことは、深く知り得ること。人生にカーナビなどない。スマートにいく道などどこにもない。迷い迷い学んでいくしかないのだ。今日は詩「本当のところ」を。◆明日は大分市で開催の「九州ブロック・地域包括・在宅介護支援センター協議会セミナー」で講演をします。大会参加の大分の方々、九州の方々、心を込めてお話しをさせていただきます。お目にかかるのを楽しみにしています。
IMGP6246-18 小
本当のところ
  藤川幸之助
胃瘻から栄養を入れることができないので
高カロリー輸液を
母に中心静脈から入れるかどうか
医師に尋ねられた
「母はもうくたびれています
 もうゆっくりさせたいので
 入れないでください」
と、私は言って帰った
これが私の本当のところ

するとそう延命というわけでもないし
入れていいんじゃないかと
妻が言い
兄も
医者をしている兄の娘も
入れるのに一票投じた
本当は私の一存で
母を殺していいのかと思っていたので
安心したというのも本当のところ

静脈から高カロリーを入れて
元気になっても
この肺の状態では一、二ヶ月後肺炎になって
またこんな状態になるのは目に見えている
母を生かし続けるのに
罪のようなものを感じた
実はこれも本当のところなんだ

いつもは不携帯の私が
便所に入るときも
風呂に入るときも携帯して
夜中何度も何度も枕元の携帯電話を確かめる
母の死にびくびくするこんな日々が
また続くのかとも思った
「私はもうくたびれています
 もうゆっくりしたいので
 入れないでください」
と、私は言いたかったのかもしれない
これもまた本当のところ

©FUJIKAWA Konosuke
詩集【支える側が支えられ 
      生かされていく】(致知出版)p165-p167より
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多くの方々に詩を読んでいただければと思っています。

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