入れ替わる◆詩「この銀河の片隅で」

◆赤ん坊の私のオムツを、母もこんなふうに替えていたんだろうなあと、母のオムツを替えながらいつも思っていた。徘徊する母の手を引いて歩きながら、そういえば幼い私は人前に出ると決まって母の手を握って離さなかったなあと、思い出が頭をよぎった。◆何度も繰り返される訳の分からない母の話に私はいつもいつも苛立ったけれど、片言交じりの幼い私の話を母は頷きながら最後まで聞いてくれていた。私にはなかなかうまくできなかったけれど、母にしてもらったことを、お返しにやっていただけだったのだ。◆「介護」とか「認知症」と言うととても大げさに聞こえるが、年老いた母の側に育ててもらった息子が寄り添っているという、ただ至極当たり前のことなのである。◆今日は詩「この銀河の片隅で」を。
L1000549-18 小
この銀河の片隅で
  藤川幸之助
この宇宙の果て
この銀河の片隅のこの星の上のこの病院で
私は認知症の母の横に座っている
なんてこともない
どにでもあること
言葉なんてどこにもない
母の寝息とエアーマットに
空気を入れる機械音だけ
時々廊下を歩く人の足音が近づいては
遠ざかっていく
高熱で苦しむ母の声で
居眠りから目を覚まし
母の額の汗をぬぐう
ココニスワッテイルノハ
ワタシナノカ?ハハナノカ?
イツカラダロウ?イレカワッタノハ?
高熱で苦しみふと夜中目を覚ますと
母は幼い私を見つめて
私の頭のタオルを替えていた
言葉なんてどこにもない
私の片息と私の背中をさする
母の手の音だけ
時々遠くに犬の遠吠えが聞こえては
静寂の中にのみ込まれていく
この宇宙の果て
この銀河の片隅のこの星の上のこの国で
私はこの母の子として生まれた
なんてこともない
どこにでもあること
©FUJIKAWA Konosuke

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