詩「戦争」

◆今日は詩「戦争」を。
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戦争   
       藤川幸之助
先の戦争で
重爆撃機に乗っていた父が
「戦争に勝ち負けなどなく
戦争それ自体が負けなんだ」
と、自分が豆粒のように映る
学徒出陣のテレビ画面を
見つめてぽつりと言った

ひとつながりの
ひとつの海を違う岸辺から
見つめているだけだというのに
自分の体に線を引き
自分の右手で
自分の左足を痛めつけ
歩けなくなっていくというのに
目はじっとそれを見ている
自分の左手が
自分の右手を切り落とし
つかめなくなっているというのに
口は何も言わない

逃げ惑う人々
泣き叫ぶ子どもたち
破壊され続ける街
人知れず朽ち消えていく命
人類はまた
負けてしまった

「お母さんの命を必死に守るのは
あの戦争の償いでもあるんだ」
とでも言っているかのように
ただせっせせっせと
戦争で人を殺した同じ手で
毎日、認知症の母のおしめを替えて
小さな一つの命を必死に守り
小さなアパートで
父は生涯を終えた

©FUJIKAWA Konosuke

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