詩「俯瞰」◆「わたし大賞」募集

◆一年を一生に喩えるなら、春に生まれ・育ち、夏に励み・働き、秋に振り返り・記し、冬には終わりに向かい、命をつなぐ、という感じでしょうか。秋には特に多くの詩が私の頭の中に浮かぶのはこのせいのような気もします。秋になってもこの夏の暑さは、まだまだしっかりと励み・働けと言われてるようでもあります。◆さて、今年も私が選定員をしている三井住友信託銀行主催の「わたし大賞」の募集がはじまりました。心を動かした人・モノ・コトとのエピソードを書き、賞状を贈るというもの。この秋に人生を振り返りながら書かれてみてはいかがでしょうか。◆募集要項の私のプロフィールにも書いていますが、「忘れられないあの思い出は、今の自分の人生をどのように照らしているか。今ここに命のあることの喜びと幸せを、人のつながりの豊かさと生きることのすばらしさを、作品を通して今年も深く感じさせていただきたいと思っています。」ご応募お待ちしています。◆今日は詩「俯瞰」。

三井住友信託銀行主催の「わたし大賞」の募集詳細は以下
https://www.smtb.jp/personal/blind/watashi-taishou

R0011127-18
俯瞰
  藤川幸之助
母がなくなって
行かなくなった場所がある
母がなくなって
通らなくなった道がある
母がいなくなって
会わなくなった人たちがいる
母がなくなって
歌わなくなった歌もある

そして、母がいなくなって
毎日上るようになった坂もあって
上って見下ろすと
私の住むところも
母の入院していた病院も
すっかり俯瞰できるのだ

母が認知症になって
あんなに小さな箱と箱の間を
何度行ったり来たりしたことか
あんなに小さな箱の中の
小粒ほどの私の中の心の中に
いろんな思いを抱えて
いく筋もの感情が吹き出して
悩み、苛立ち、落ち込み、
泣いて、時にはホッとして

「俯瞰」という言葉を
教えてくれたのも母だった
鳥のように高いところから見ると
見えないものもしっかりと見えるのよと
今日も丘に上り見下ろす
この私よりもっと高くに上って
母さん、何が見えますか?
どんなことが分かりますか?

©FUJIKAWA Konosuke
詩集【支える側が支えられ 生かされていく】より

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多くの方々に詩を読んでいただければと思っています。

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