▲今日、朗読を聞いていただく「宇宙遊泳」は、『手をつないで見上げた空は』ポプラ社に掲載の詩。この詩集は、詩集『マザー』(ポプラ社)に高橋和枝さんが絵を付けてくださったもので、昨年ソフトカバーで再版本も出た。その中の詩「宇宙遊泳」は、私が36歳の頃の作。母が認知症になって10年たった頃に書いたもので、イメージ通りに動かない母の行動に苛立ちながらも、ふと見せる母親としての姿に驚いていた頃だった。▲2008年に出たこの本の初版本は、カバーが切り抜いてあり、そこから本の表紙がのぞく凝った作りだった。では、朗読をお聞きください。
藤川幸之助facebook http://www.facebook.com/fujikawa.konosuke
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■ 音楽 : 家高 毅
■ 語り : 村山 仁志
■ 構成 : 松本 篤彦
■ 詩 : 藤川 幸之助
詩「宇宙遊泳」
木の箱に入れてある
私のへその緒
そのへその緒がしまってある
タンスの横のテレビで
初めて宇宙遊泳の映像を見た
宇宙ロケットアポロの映像だった
この時あの命綱が切れてしまえば
どこまでもどこまでも
真っ暗な宇宙の闇を
たった一人で浮遊し続ける
と父から聞いた
その時私は母にしがみついた
母のお腹から出てきて
宇宙遊泳を始めて三十六年
「息子である」という命綱も
もう古びて
切れそうになっている
それどころか
私のつながれている宇宙船が
操縦不能になってしまって
私がその頼りない命綱で
宇宙船を引き寄せたり
右へやったり左へやったり
時にはおしめを代えたり
その宇宙船を
寝かしつけてから
宇宙の暗闇に漂いながら
もうこの命綱を切ってしまおうかなと
ふと夜中目を開けると
私の宇宙船が
私の命綱の絡まりをほどき
そのほころびを繕っていた
そして
私の体にふとんを
かけ直していた
私は
寝ているふりをした