詩「母の中の父」◆「愛の記憶」

2020/05/15
◆詩集『支える側が支えられ 生かされていく』の中に、「約束」という詩があります。認知症の症状が進んでも私の好物のライスカレーのことを忘れない母を見て、「幸之助お前は幸せやなあ。」と父が言った時のことを書いた詩です。今日の「母の中の父」は、この詩「約束」と対になっている詩です。◆片や息子への愛、片や父に愛された記憶、どちらも認知症が進んでも母の中に残り続けた記憶でした。「愛の記憶」こそ、認知症でも忘れ去ることも、消し去ることのできないものではないかと、母の命に向き合った24年間を振り返って思います。今日も朗読動画を作りました。

母の中の父
       藤川幸之助
「更けゆく秋の夜……」
と始まる秋の童謡「旅愁」
この歌を
春、桜が咲いていようが
夏、汗だくになっていようが
冬、雪が降っていようが
一年中母の耳元で歌う
この歌を聴けば
認知症の母が
大声を出して叫ぶのだ
しかし、あんまり上手く歌ったら
眠ったままのときがあるので
父の声まねをして
できるだけ下手に歌う
すると、母はぱっと目を開け大声を出す

父は母の手を取り
毎日毎日この歌を歌っていた
父がなくなった今でも
この歌を聴く母の心の中では
父がぽっかりと月のように浮かび
静かに母の心を照らしているのだろう
母の中には父の愛が
結晶となって残っているにちがいない
忘れる病にもわすれることのできない
認知症にもけすことができない
そんなものがあるのだと……
しかし、歌を下手に歌うのが
こんなに大変だとは思わなかったが
私の声の中にも
しっかりと父は生きていて
優しく愛しい父が
私の中にも生きていて
「支える側が支えられ 生かされていく」より
◆自選藤川幸之助詩集
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多くの方々に詩を読んでいただければと思っています。
©Konosuke Fujikawa【詩・朗読*藤川幸之助】
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