◆本を作るときには必ず同じCDをくり返し聞く。そうすると原稿を書くリズムができる。私なりの原稿の山の越え方だ。今度の詩集ではパッセンジャーの「Whispers」と細野晴臣の「HOCHONO HOUSE」を聞いた。◆「HOCHONO HOUSE」の中に「恋は桃色」という楽曲がある。その中に「お前の中で雨が降れば/ぼくは傘を閉じて/濡れていけるかな」という歌詞が出てくる。「あなたの悲しみを自分の悲しみとして受け止めることができるか」という感じだろうか。◆病院で母の世話をしていた私は、詩の中に出てくるおばあちゃんから「死なせてください」を一日中聞かせられ、辟易していた。その私の顔を見て、このおばあちゃんのところにはご家族がもう一年も見舞いに来ていないことを看護師さんが教えてくれた。このおばあちゃんの悲しみなど、遠巻きに傘を差して見ている私には想像すらできなかったのだ。◆この詩ももちろん、自選新詩集に掲載予定だ。©Konosuke Fujikawa
さびしい言葉
藤川幸之助
ある病院で母と同室だったばあちゃんは
母と同じくらい認知症が進んでいた。
母とちがうのは言葉が話せること。
看護師さんが来ると必ず
「お願いします死なせてください」なのだ。
看護士さんが母の世話をしているときも
背中越しに
「お願いします死なせてください」
時には私に向かって
「お願いします死なせてください」
また時には認知症の母に向かって
「お願いします死なせてください」
「さびしい言葉ね それはできないのですよ」
看護師さんが言うと
「いやできるはず 死なせてください」
*
ある日「死なせてください」を
繰り返すばあちゃんに
「息がきついのよね」
看護師さんが優しく言うと
「はいきついんです死なせてください」
「さびしいのよね」
「はいさびしいんです死なせてください」
その日はそれからばあちゃんは
ひとことも喋らず安心したように眠った。
そしてその日もばあちゃんの所へは
誰も見舞いには来なかった。
これでもう一年にもなるらしい。
*
「死なせてください」
というばあちゃんの願いは
今日もかなえられなかった。
夜静まりかえった病棟。
私の頭の中でめぐり続けるばあちゃんの声。
本当の願いは
「さびしいのです
誰か一緒にいてください
生きていたいのです」
と私には
もっとさびしい言葉に聞こえるのだ。
©Konosuke Fujikawa【詩・写真*藤川幸之助】
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