詩「細い道」◆便利さ故に忘れていたこと

◆ある日、TVの時代劇の中でのことだ。長屋に住むある男が急に腹痛に襲われ、痛みに耐えかねて大声を出していた。すると、長屋の住人がこぞって集まって、ある者は男を運ぶ戸板を用意し、ある者は町医者のもとに走り、ある者は運ばれていく男の手を握り励まし、力を合わせて男を病院へ運んでいた。◆現代ではアパートの壁は厚く、痛がる男の声も聞こえない上に、電話一本で救急車が来て、あたかもこんな時には人のこの「つながり」など必要ないのかのように見える。しかし、介護や認知症の問題はこの「つながり」をもう一度見直す機会のように思う。介護や認知症の問題は決して一人で乗り越えられる山ではない。この詩の中に書いている「便利さ故に忘れていたこと/不便さ故に保たれてきたこと」というフレーズが思い浮かんだ。今日はこの詩「細い道」を。
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細い道
  藤川幸之助
ここを通るとき
人と人とはゆずり合う
一人が通るのに
やっとの広さの細い道
顔を見合わせ
人と人とは挨拶を交わす
この道が細い道でよかったと
すれ違う人を待ちながら
時には待たせながら
思うようになった
便利さ故に忘れていたこと
不便さ故に保たれてきたこと
人に向けられた日毎の
ささやかな思いが
この道を細いままにした
静かに交わされる
言葉と言葉の間を
波音が優しく通り過ぎてゆく
私は毎朝海沿いの
細いこの一本の道を通る
©Konosuke Fujikawa【詩・写真*藤川幸之助】
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