詩「ツバメ」

【詩「ツバメ」】
◆桜は今、東北あたりのようです。今日は桜の花と春の訪れを告げる「ツバメ」の詩を。

ツバメ      藤川幸之助

今年こそはと
毎年のように思って
春になると
土間の戸を開け放して寝る
寒い夜にはストーブまで用意して
ツバメは
優しい人の住むところに
巣を作ると小さい頃聞いてから

一度だけ
私の家に巣を作ったことがあった
でも白い糞で家が汚れるからと
母が土間に新聞しきつめて
おまけに巣の中にまで新聞をしいた
それからツバメは帰ってこなかった
私は優しくはなれない
一生もう私は
優しい人にはなれないと
母をにらみつけた

今年も
土間の戸を開け放して眠る
寒い夜のためにストーブまで用意して
私は今年こそ優しい人に
なっているのかと
そんな私のそばを
白い腹と赤いあごを見せて
スーッチとツバメが横切ってゆく
優しさが私にスーッチと近づいては
スーッチと遠ざかってゆく
             2003年11月子ども雑誌に書き下ろし
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