詩「桜」

【詩「桜」】
◆私の住む長崎は桜が満開です。雑誌の原稿でも新聞の原稿でももちろんfacebookでもブログでも、桜の詩や桜の写真は桜が咲いているその時に掲載しなければ気が済まない。桜が散ってから桜を語るのは、未練がましく感じるからか、潔さに欠けるからか、なにか心地が悪い。だから、桜が咲いている内に今日は詩「桜」を。


       藤川幸之助
目の前の春は一つでした
目の前の桜も一本でした
母が認知症になる前は

今、私には桜の花びらが
幾重にも重なって見えます
今年の桜の花びら
その奥に去年の桜
そのまた奥におととしの桜
その一番奥には
母が認知症になった二十一年前の桜
鮮やかにはらはらと
重なり重なり散っています

それらの春の花見のどこかで
ウロウロしている母に
「母さん、どこへ行くとね?」って
聞いたこことがありました
「お墓へ行くとよ」
と、母が言うと
「いっしょに行くよ、母さん」
と、父は笑って言っていました

そんな父がふと
春になると
魂のような淡い色で
桜の枝に現れるのです
それまでどこに桜の樹があるのかさえ
すっかり忘れていたのに
だから、本当は嫌いなんです
この季節が
父が母を迎えに来ているようで
言葉のない母の心の
本当のところを見るようで
(詩・文・写真/藤川幸之助)
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