◆Less is more.この言葉は、ドイツ出身の建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉。ミースは、画家のパウル・クレーが教鞭をとったバウハウス(美術と建築の総合的な教育を行った学校)の校長も務めた。そのまま訳すと「より少ないことは、より多いこと」となり、何のことかさっぱり分からなかった。◆ある日、時代劇を見ていたら、長屋の安兵衛さんが病気になった。長屋中は大騒ぎで、ある者は戸板で彼を運び、ある者は医者の元へ走り、ある者は彼の手を握り励ましていた。人と人との繋がりの中での心通う豊かさをTVドラマの出来事ではあったが感じた。◆現在ならば電話一本で救急車が来て、誰にも迷惑をかけず病院へ行けるが、江戸時代はそうはいかない。不便さ故に、乏しさ故に人と人とのつながりが必要だった。この現代は、便利さ故に、豊かさ故に人と人とのつながりが見えづらくなった時代なのだ。◆Less is more.「より少ないことは、より豊かなこと」という訳でどうであろうか。物質的な豊かさや便利さに隠れて見えなくなってしまっている人と人との繋がりや心の豊かさを、もう一度見つめ直す時が来ていることを、この言葉は教えてくれているようにも思う。◆今日は詩「細い道」をどうぞ。【詩・エッセ・イラスト*藤川幸之助】
細い道
藤川幸之助
この道を通るとき
人と人とはゆずり合う
細く一人が通るのに
やっとの広さだから
そして、顔を見合わせ
人と人とは挨拶を交わす
この道が細い道でよかったと
すれ違う人を待ちながら
時には待たせながら
思うようになった
便利さ故に忘れていたこと
不便さ故に保たれてきたこと
人に向けられた日毎の
ささやかな思いが
この道を細いままにした
静かに交わされる
言葉と言葉の間を
波音が優しく通り過ぎてゆく
私は毎朝海沿いの
細いこの一本の道を通る
2014.7.11書き下ろし
◆お時間があればご覧ください。
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詩人・藤川幸之助
◆放送日時
本放送:5月13日 20:00~20:29
再放送:5月19日13:05~13:34