目に映る世界*詩「本当の空」

◆ソニーのウォークマンが出たとき、音楽を聴きながら歩く若者が「音楽を聴きながら歩いていると、この世界が今までと違って見えるんです」と、オレンジ色のイヤーパッドを外しながらインタビューに答えていたのを覚えている。それまでは音楽は家で聞くものだったので、このインタビューを聞いて、ウォークマンが欲しくて欲しくてたまらなくなった。◆音楽を聴いて心が高揚して、目に見える世界が変わってくるということだと思うが、この世界の見え方は心に大きく依存していてる。今もあまり変わらないが、私は若い頃は特についつい人の欠点や悪いところばかり見えていつもイライラしていた。その怒りや苛立ちは他人のせいではなく、そのような切り口からこの世界を見つめている自分の心が作り出していたのだと思う。自分に見えている世界は自分の心が作っている。人の良いところばかり見ていけばこの世界は違って見えるのではないだろうかとこの年になってやっと気がついた。◆今日は詩「本当の空」を、帯広での写真とともにどうぞ。【写真・詩・エッセ*藤川幸之助】

本当の空
           藤川幸之助
落葉樹の枝を
透かして
空を見つめていると
私の目玉を
透かして私自身が見ている
空は
本当の空ではないのではないか
と疑いたくなる
この耳を通した
あの波の音も
この舌を通した
この蜜柑の味も
この肌を通した
あなたのあたたかさも
本当ではないかもしれないと

この私という体が
あの空の優しい色だけを
あの波の優しい音だけを
あの蜜柑(みかん)の優しい味だけを
あなたのあたたかさだけを
感じとれるように
出来上がっているのではないかと
空や
波や
蜜柑や
あなたを
ちょっぴり疑ってみたりする
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