◆「眼聴耳視(げんちようじし)」という言葉がある。陶芸家・河井寛次郎の造語だ。眼(目)で聴(聞)き、耳で視(見)るということ。目で聞くことなら、24年間やってきた。認知症で言葉を失った母を見つめることで、母の言葉にならない心を聞いてきた。一方、耳で見るとは今日の詩「靴音」のようなもの。◆言語以外の手段を用いたコミュニケーションをノンバーバルコミュニケーション(非言語コミュニケーション)と言い、視線や身振り、表情などでのコミュニケーションもその中に入る。◆視線や身振り、表情などノンバーバルなもので相手の心を感じるとき、言葉よりももっと深く、もっと近くに、時にはもっと遠くにその人を感じるときがある。◆今日の詩の中に出てくる「靴音」も、それをもってその人を分かろうとするならば、ノンバーバルコミュニケーションの一つになるだろう。その音の持つ意味、いやその音に通じるその人の存在に耳を澄ます。ノンバーバルなものはイマジネーションをとても刺激する。{言葉・詩・写真・藤川幸之助}
靴音
藤川幸之助
靴音であなたかどうかが
私には分かります
靴音であなたが
喜んでいるのが分かります
靴音であなたが
しょげているのが分かります
靴音であなたが
怒っているのが分かります
靴音であなたかどうかが
私には分かるようになりました
今まであなたとこの今を
大切に生きてきたからです
靴音が遠ざかってゆきます
あなたが私から離れてゆくのが分かります
靴音が近づいてきます
あなたが私に近づいてくるのが分かります