母に優しい言葉をかけても
ありがとうとも言わない。
ましてやいい息子だと
誰かに自慢するわけでもなく、
ただにこりともしないで私を見つめる。
二時間もかかる母の食事に
苛立つ私を尻目に、
母は静かに宙を見つめ
ゆっくりと食事をする。
本当はこんなことしてる間に
仕事したいんだよ。
時には、母のウンコの臭いに
うんざりしている私の顔を
母は静かに見つめている。
こんな臭いを
なんでかがなくちゃなんないんだ。
「お母さんはよく分かっているんだよ」と
他人は言ってくれるけれど、
何にも分かっちゃいないと思う。
夜、母から離れて独りぼっちになる。
私は母という凪いだ海に写る
自分の姿をじっと見つめる。
人の目がなかったら、
私はこんなに親身になって
母の世話をするのだろうか?
せめて私が母の側にいることを
母に分かっていてもらいたいと、
ひたすら願う静かな長い夜が私にはある。
※「満月の夜、母を施設に置いて」(中央法規)より
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