詩「花見」◆毎日新聞広告

◆私の住む長崎でも桜が開花しました。◆私は、お盆も正月も実家に帰ることもなく、親孝行らしいことも全くしたこともなかった息子でしたが、この詩の中にある春の日に母が認知症の診断を受けたと父から電話を受け、父母を花見に連れて行こうと実家に帰った時のことでした。◆父からこの詩の中の弁当屋での話を聞いたとき、弁当屋の小さなテーブルに向かい合って座り、毎晩二人で食事をする認知症の母と老いた父を思い浮かべて、胸が締め付けられる思いになりました。◆もちろん今回の自選詩集「支える側が支えられ 生かされていく」には入れました。3月31日(火)に発売予定です。今日は毎日新聞の新聞広告を掲載しています。

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花見
藤川幸之助
たこ焼きとカンのお茶を買って
父と母と三人で花見をした
弁当屋から料理を買ってきて
花見をやればよかったねと言うと
弁当は食い飽(あ)きてね
と父が言った
母が認知症になり料理を作らなくなって
毎日のように弁当屋に行くのだそうだ
弁当屋の小さなテーブルで
二人で並んで弁当を食べるのだそうだ
あの二人は仲のよかね
と病院中で評判になっているんだと
父は嬉しそうに話した

この歳になっても
誉められるのは嬉しかね
何もいらん
何もいらん
花のきれかね
よか春ね
母に言葉がいらなくなったように
父にも物や余分な飾りは
いらなくなってしまった

今年もカンのお茶とたこ焼きを買って
母と二人で花見をした
花のきれかね
よか春ね
と父の口真似をして言ってみる
独り言を言ってみる
『支える側が支えられ生かされていく』(致知出版社刊)
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絵本こどもに伝える認知症シリーズ刊行◆詩「キューピー」

◆本日から、 藤川幸之助・作「絵本 こどもに伝える認知症」シリーズ全5巻(クリエイツかもがわ)が順次刊行されます。◆本シリーズは、私と若手画家4名と組んだ書き下ろしの絵本です。「認知症を伝える」のではなく、「認知症で伝える」ことをコンセプトとしています。◆知識からだけではなく、認知症の本人、家族、周囲の人の思いやつながりから認知症を学ばせながら、差別や偏見をのりこえて、子どもたちの中に想像力、観察力、洞察力、共感力などを育んでいきます。◆本日、その第1弾となる『赤ちゃん キューちゃん』(藤川幸之助・作 宮本ジジ・絵)が発売になりました。子育てしていた若いころが一番楽しかったおばあちゃんは、セルロイド人形のキューちゃんといつも一緒です。孫の節っちゃんから見たおばあちゃんの世界や家族のかかわりとは、節っちゃんの思いや気づきとは・・・。Dr.クロちゃん(ネコ)と節っちゃんのやりとりも楽しい認知症の解説付きです。

◆次の順番とタイトルで刊行予定です。
①『赤ちゃん キューちゃん』(宮本ジジ・絵)2020年3月発売
②『おじいちゃんの手帳』(よしだよしえい・絵)2020年5月発売
③『一本の線をひくと』(寺田智恵・絵)2020年7月発売
④『赤いスパゲッチ』(寺田智恵・絵)2020年9月発売
⑤『じいちゃん、出発進行!』(天野勢津子・絵)2020年11月発売

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赤ちゃんキューちゃん_カバー_0205 絵本こどもに伝える認知症

 

 

 

 

 

 

 

 

◆この絵本は以下の詩「キューピー」から

できた絵本です。

キューピー
藤川幸之助
母はキューピー人形を大切に抱え
やさしくあやしていた
恥ずかしいからやめろと
私が人形を取り上げようとすると
母は決して渡そうとしなかった

取り上げようとした
キューピー人形は幼い私
母は私を抱きかかえて
頭をやさしくなでて
乳をやろうとしている
畳の上に大切において
大まじめでオムツを替えようとしている

キューピーちゃんは
パッチリと目を開けて
母の愛を見つめたままだった
母さん!今は
その子が母さんの
オムツを替えてるんだよ

認知症の人が昔に返るとき
一番充実した日や
一番楽しかった日に返ると聞いた
母はキューピー人形を大切に抱え
やさしくやさしくあやしている
私もキューピーに負けないくらい
パッチリと目を開け
愛された日々と母の愛を
しっかりと見つめ直す
©Konosuke Fujikawa【詩・文*藤川幸之助】

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認知症について知ってほしいと思っています。

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詩「桜」◆自選・藤川幸之助詩集より

◆今年の桜の開花は早そうですね。今日は、3月31日(火)発売予定の自選詩集『支える側が支えられ 生かされていく』(致知出版社)から詩「桜」をお届けします。

桜1のコピー

 

 

 

 

 

 

藤川幸之助

目の前の春は一つでした
目の前の桜も一本でした
母が認知症になる前は

今、私には桜の花びらが
幾重にも重なって見えます
今年の桜の花びら
その奥に去年の桜
そのまた奥におととしの桜
その一番奥には
母が認知症になった二十数年前の桜
鮮やかにはらはらと
重なり重なり散っています

それらの春のどこかの桜の木の下で
ウロウロしている母に
「母さん、どこへ行くんね?」って
聞いたこことがありました
「お墓へ行きます」
と、母が言うと
「いっしょに行くぞ、母さん」
と、父は笑って言っていました

春になるとそんな父がふと
魂のような淡い色で
桜の枝に現れるのです
それまでどこに桜の樹があるのかさえ
すっかり忘れていたのに
だから、本当はこの季節が嫌いなんです
父が母を迎えに来ているようで
桜の花の下に連れて行くと
母は決まって虚空を見つめて
大声で叫ぶんです
詩集『支える側が支えられ 生かされていく』
詩集の詳細は https://amzn.to/2TFsqRT

©Konosuke Fujikawa【詩・写真*藤川幸之助】
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新刊本のお知らせ◆自選 藤川幸之助詩集

◆3月30日(月)に、自選 藤川幸之助詩集『支える側が支えられ、生かされていく』(致知出版社)が発売になります。◆本書は、これまで七冊の母の詩集の中から詩篇六十一篇を自選し、私のイラストを装画や挿画にも使った詩集です。◆認知症の母の介護という山をどうにか乗り越えた二十四年間の歩みを、この詩集の一篇一篇に刻み込みました。どんな悲しみや苦しみの中にあっても、人は決して一人で生きているのではないこと、人は皆、誰かを支え、誰かに支えられ、様々な関係性の中で生かされていることを忘れないでほしいと思っています。この詩集がその一助になれば幸甚です。◆詩集刊行に先立ち、3月5日(木)~3月8日(土)の期間限定の先行予約amazonキャンペーンを開催されます。予約特典には、私の作品5篇からなる「カラーイラスト付き未収録詩集」(非売品)のPDFデータをもれなくプレゼントいたします。貴重な未収録詩集です。この機会をお見逃しなく。☆「自選 藤川幸之助詩集」amazonキャンペーン詳細はこちら⇒ https://www.chichi.co.jp/specials/fujikawa_sishu/

jisennfujikawakounosukeshishu

 

 

 

 

 

 

 

 

本書に掲載の掲載の詩です。

「ただ月のように」
           藤川幸之助
ただ月のように
認知症の母の傍らに静かに佇む
何かをしているように
何にもしていないように
見つめているようで
見つめられているようで

ただ月のように
母の心に静かに耳を澄ます
聞いているように
聞かれているように
役に立っているようで
役に立っていないようで

ただ月のように
母の命を静かに受け止める
受け入れるように
受け入れられているように
愛しているようで
愛されているようで

ただ月のように
ただそれだけでいい
何かをするということではない
何かをしないということでもない
することとしないことの
ちょうど真ん中で
することとされることが交叉する
ただ月のように
ただそれだけでいい

©Konosuke Fujikawa【詩・*藤川幸之助】
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詩「さびしい言葉」◆恋は桃色

◆本を作るときには必ず同じCDをくり返し聞く。そうすると原稿を書くリズムができる。私なりの原稿の山の越え方だ。今度の詩集ではパッセンジャーの「Whispers」と細野晴臣の「HOCHONO HOUSE」を聞いた。◆「HOCHONO HOUSE」の中に「恋は桃色」という楽曲がある。その中に「お前の中で雨が降れば/ぼくは傘を閉じて/濡れていけるかな」という歌詞が出てくる。「あなたの悲しみを自分の悲しみとして受け止めることができるか」という感じだろうか。◆病院で母の世話をしていた私は、詩の中に出てくるおばあちゃんから「死なせてください」を一日中聞かせられ、辟易していた。その私の顔を見て、このおばあちゃんのところにはご家族がもう一年も見舞いに来ていないことを看護師さんが教えてくれた。このおばあちゃんの悲しみなど、遠巻きに傘を差して見ている私には想像すらできなかったのだ。◆この詩ももちろん、自選新詩集に掲載予定だ。©Konosuke Fujikawa
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さびしい言葉
  藤川幸之助
ある病院で母と同室だったばあちゃんは
母と同じくらい認知症が進んでいた。
母とちがうのは言葉が話せること。
看護師さんが来ると必ず
「お願いします死なせてください」なのだ。
看護士さんが母の世話をしているときも
背中越しに
「お願いします死なせてください」
時には私に向かって
「お願いします死なせてください」
また時には認知症の母に向かって
「お願いします死なせてください」
「さびしい言葉ね それはできないのですよ」
看護師さんが言うと
「いやできるはず 死なせてください」

ある日「死なせてください」を
繰り返すばあちゃんに
「息がきついのよね」
看護師さんが優しく言うと
「はいきついんです死なせてください」
「さびしいのよね」
「はいさびしいんです死なせてください」
その日はそれからばあちゃんは
ひとことも喋らず安心したように眠った。
そしてその日もばあちゃんの所へは
誰も見舞いには来なかった。
これでもう一年にもなるらしい。

「死なせてください」
というばあちゃんの願いは
今日もかなえられなかった。
夜静まりかえった病棟。
私の頭の中でめぐり続けるばあちゃんの声。
本当の願いは
「さびしいのです
 誰か一緒にいてください
生きていたいのです」
と私には
もっとさびしい言葉に聞こえるのだ。  
©Konosuke Fujikawa【詩・写真*藤川幸之助】

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