【お家で読む1ダースの詩 #11】藤川幸之助

5/6.7
12日間、12篇の詩をお送りしています。家で、力を抜いて、開いて、読んで、閉じて、また明日。詩の12日間。

やま
   藤川幸之助
さんぜんねんまえから
やまはしっていた
こちらがわのひとが
あちらがわのひとに
あこがれていることを
あちらがわのひとも
こちらがわのひとに
あこがれていることを
やまはじぶんのことを
うんめいのようだとおもっていた

にせんねんまえから
やまはまっていた
こちらがわのひとが
このじぶんをこえて
あちらがわにいくことを
あちらがわのひとも
このじぶんをこえて
こちらがわにたどりつくことを
やまはじぶんのことを
しれんのようだとおもっていた

せんねんまえから
やまはまちのぞんでいた
こちらがわのひとが
このじぶんをほりすすんで
あちらがわにいくことを
あちらがわのひとも
このじぶんをほりくずして
こちらがわにたどりつくことを
やまはじぶんのことを
きぽうのようだとおもっていた

こちらがわがあちらがわになり
あちらがわがこちらがわになり
こっちもあっちもなくなって
はるのひかりのなか
やまはわらっていた
わらったあとやまはおもった
あとはひとのこころのなかの
こっちとあっちがなくなるだけだと
やまはじぶんのことを
てつがくのようだとおもった
©Konosuke Fujikawa
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土 (2)
©Konosuke Fujikawa【詩・絵*藤川幸之助】
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【お家で読む1ダースの詩 #9】藤川幸之助

5/4.5.6.7
12日間、12篇の詩をお送りしています。家で、力を抜いて、開いて、読んで、閉じて、また明日。詩の12日間。

バス停のイス
         藤川幸之助
バス停にほったらかしの
雨ざらしのあの木のイス。
今にもバラバラに
ほどけてしまいそうな
あのイス。

バスを待つ人を座らせ
歩き疲れた老人をいこ憩わせ
バスに乗らない若者の談笑につきあい
時にはじゃま者扱いされ
けっとばされ
毎日のように
学校帰りの子どもを楽しませる。

支える。
支える。
くず崩れていく自分を
必死に支えながらも
人を支え続け
「それが私なんだもの」とつぶやく。

そのイスに座り
そのつぶやきが聞こえた日は
どれだけ人を愛したかを
一日の終わり静かに考える。
少しばかり木のイスのよいん余韻を
尻のあたりに感じながら
〈愛〉の形について考える。
©Konosuke Fujikawa

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