k-fujikawa の紹介

詩人、児童文学作家。認知症の母の世界を描いて、十数年。介護も終わり、そろそろ時々つぶやいてみようかと。命や認知症について全国各地で講演中。著作に『マザー』『君を失って、言葉が生まれた』(ポプラ社)、『満月の夜、母を施設に置いて』(中央法規)、『やわらかな まっすぐ』(PHP出版)等。

詩「私の中の母」◆津島市・講演会のお知らせ

◆今日は、愛知県津島市での講演会のお知らせです。今日の詩は「私の中の母」を。

詩「私の中の母」
       藤川幸之助
 母よ
認知症になって
あなたは歩かなくなった
しかし、私の歩く姿に
あなたはしっかりと生きている
母よ
あなたはもう喋らなくなった
しかし、私の声の中に
あなたはしっかりと生きている
母よ
あなたはもう考えなくなった
しかし、私の精神の中に
あなたはしっかりと生き続けている
 
私のこの身体も
私のこの声も
私のこの心も
私のこの喜びも
私のこの悲しみも
私のこの精神も
私のこの今も
私のあの過去も
私のあの未来も
この私の全ては
母よ
あなたを通って出てきたものだ
 
母よ

私は私の中に
あなたが生きていることが
とてもうれしいのだ

©FUJIKAWA Konosuke
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地域連携フォーラム2024チラシ(確定版)_page-0001のコピー

【講演会のお知らせ】
●あんしんネットつしま地域連携フォーラム2024
◆【講演】:詩人・藤川幸之助
 「支える側が支えられるとき
  〜認知症の母が教えてくれたこと〜」
◆日時:2024年11月16日 (土) PM 2:00〜PM 4:20
◆会場:愛知県津島市 津島市文化会館 大ホール
◆参加無料 
 どなたでもご参加になれます。
◆お問い合わせ 
津島市医歯薬介連携推進協議会(あんしんネットつしま) 
電話:0567-32-3066 FAX:0567-32-2796

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受信する◆詩「コスモス」

◆ギリシャ神話で、秩序整然として調和の取れた世界のことをコスモス(kosmos)と言い、転じて宇宙のことをコスモスと言うようになった。また、同様にコスモスという花の名も、整然とバランスよく花びらが並んでいる様子から名付けられたそうだ。宇宙の呼び名と花の名が同じ語源とは興味深い。というのは、昔から私にはコスモスが、花のパラボラアンテナを宇宙に向けて、何かを静かに受信しているように見えていたからだ。今日は詩「コスモス」を。with Leica Q2

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コスモス
藤川幸之助

コスモスの花は
アンテナを広げて
受信しているように見える。
宇宙の方をじっと見つめて
言葉ではない何かを
受け取っているように。

この二十年
母と言葉を交わしたことがない。
母の心の本当のところを
分かったことなどない。
私が言葉で話しかけ
言葉でないもので母は答えてきた。

言葉を失った母は
抱きかかえると驚くほど軽い。
母の重さは
言葉の重さでも
身体の重さでもなく
存在の重さ。
抱きかかえられ
愛された遠い記憶。

言葉のないあなたの心の声を
聞こうとする。
言葉のないあなたの心の痛みを
感じようとする。
分からないかもしれない
でも私は分かろうとする。
大切なのは分かることではない。
分かろうとすること。
感じること。
私は母をしっかりと見つめて
今日も母を受信する。
©FUJIKAWA Konosuke(書き下ろし)

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音楽家・福山雅治の隠し味◆詩「身体の記憶」

◆自宅近くに「長崎スタジアムシティ」ができた。そのピーススタジアムのこけら落としで福山雅治さんのコンサートがあった。俳優の福山雅治しか知らない私は、妻のお供で参加したのだが、音楽家・福山雅治に心をわしづかみにされてしまった。こんなに魅了されるのは不思議だった。◆楽曲「知覚と快楽の螺旋」のようなビートがきいたソリッドで切れ味の良い音と、楽曲「道標」のような福山さんの洗練された歌詞を優しいメロディーに乗せた心地よい音が交互にやって来て、音楽を受け入れる私のレセプターの形にピッタリとはまっていったという感じだった。どこかで味わったことのある雰囲気や魅力でもあった。◆公演の最後に福山さんがメンバー紹介をした。バンドマスターとして紹介されたのが井上鑑さんだった。私と同世代の人には、寺尾聰さんの曲「ルビーの指環」が入ったミリオン・セールス・アルバム「Reflections」や大滝詠一さんの曲のアレンジャーとしてその名を耳にした方もおられるかもしれない。◆20代の頃、井上鑑さんのレコード『PROPHETIC DREAM』をカセットに録音して何度も何度も聞いた。井上さんのアレンジだと知ると手当たり次第に楽曲のEPレコードを買い求め聞いて、真似て曲を作った。この時感じていた井上鑑さんのアレンジの味わいや雰囲気を、公演の福山雅治さんの楽曲の中に「隠し味」として私は感じとっていたのかもしれない。目立たぬ程度にごく少量加え、全体の味を引き立たせることを「隠し味」と言うが、アレンジャー・井上鑑に気がつかぬまま音楽家・福山雅治に魅了された素晴らしいコンサートだった。◆特に楽曲「道標」は胸に響いた。蜜柑農家をされていたお祖母さんのことを歌った歌だとファンの方に教えてもらった。今日の詩は「身体の記憶」。with SONY-DSC-RX1RM2

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身体の記憶

藤川幸之助

この季節になると
とにかく認知症の母は汗をかく
母の身体を毎日のようにふく
この母の身体には
私の幼い頃の縮図が描かれている

もう歩くことを忘れた足が
母の体からすっと伸びている
臆病な私はいつもこの足にしがみついた
もう抱きしめることを忘れた腕
その腕から分かれた五本の指は
指し示すことも握ることもしない
この手にどれだけ励まされ叱られ
抱きしめられたか
父に内緒でもらった家出の金も
この手が渡してくれた

赤ん坊の私が乳を吸う時
いつも触ってたのでちぎれそうだと
母がよく話した胸のホクロは
まだちぎれずにしっかりと残っている
病弱な私をこの背中に背負って
夜中、母は何度病院へかけたか
このヘソとつながって
この世界へ私は生まれてきた
母の口は何も語らないが
母のこの身体は私の幼い頃を雄弁に語る

着替えさせたパジャマやタオルを
毎日のように洗濯し
毎日のようにたたむ
おれは忙しんだよと愚痴りながらも
せずにはいられない
母の身体には
私の幼い頃の縮図が眠っている

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海容◆詩「静かな長い夜」

◆「海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がいる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」*1 #三好達治 の詩集『測量船』の詩「郷愁」の一節である。◆「海」という文字の中には、確かに「母」という文字が入っている。また、フランス語で、「母」はmère(メール)と表記し、「海」はmer(メール)と書く。同じ発音だというのも面白いが、mère(母)の「e」をとれば、mer(海)になる。つまり、日本語では海の中に母がいて、フランス語では母の中に海があると言うわけだ。◆認知症の母を前に、私はいつもじたばたした。そんな私を、母は海のように静かに見つめていた。そんな母の瞳を見ると、「海容」という言葉を思い出す。広く物を容れる海の様子からできた言葉で、海のような広い心を以て、人を許すことを意味する。◆海に真っ青な空がくっきりと映り、海と空とが一つに解け合う姿が目に浮かぶ。海容の「容」という字には、「受け入れる」という意味もあるらしい。母という海は、認知症という病気を受け入れ、できの悪い息子を受け入れて、その生の青さを深くしていったようなのだ。母の中にも海はあって、海の中にも母はいた。今日は詩「静かな長い夜」を。■参考文献 *1『測量船』三好達治・講談社文芸文庫
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詩「静かな長い夜」
藤川幸之助

母に優しい言葉をかけても
ありがとうとも言わない。
ましてやいい息子だと
誰かに自慢するわけでもなく
ただにこりともしないで私を見つめる。

二時間もかかる母の食事に
苛立つ私を尻目に
母は静かに宙を見つめ
ゆっくりと食事をする。
「本当はこんなことしてる間に
仕事したいんだよ」
母のウンコの臭いに
うんざりしている私の顔を
母は静かに見つめている。
「こんな臭いをなんで
おれがかがなくちゃなんないんだ」

「お母さんはよく分かっているんだよ」
と他人(ひと)は言ってくれるけれど
何にも分かっちゃいないと思う。

夜、母から離れて独りぼっちになる。
私は母という凪(な)いだ海に映る自分の姿を
じっと見つめる。
人の目がなかったら
私はこんなに親身になって
母の世話をするのだろうか?
せめて私が母の側にいることを
母に分かっていてもらいたいと
ひたすら願う静かな長い夜が私にはある。
©FUJIKAWA Konosuke
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迷うことは深く知ること◆詩「本当のところ」

◆カーナビがあるので迷わなくなったが、スマートに目的地へ着ける分、その土地のことを深く知ることもなくなった。◆私はひどい方向音痴で、一度迷うと同じ道をグルグル回ったり、反対方向に曲がって目的地から遠く離れていったりだ。しかし、そのおかげで思いがけなく美しい海にたどり着いたり、その土地の人の優しさに触れたりと、その土地のことを深く知り得るのだ。◆認知症の母の医療の選択においても、私はいつも迷いに迷った。そんな私に医師が「誰でも迷うのですから、迷っていいんですよ」と言った。それ以来、私の「迷い」はこの何気ない医師の言葉に支えられていたように思う。◆迷った方が道のりは長く、その分学ぶことも多い。迷うことは、深く知り得ること。人生にカーナビなどない。スマートにいく道などどこにもない。迷い迷い学んでいくしかないのだ。今日は詩「本当のところ」を。◆明日は大分市で開催の「九州ブロック・地域包括・在宅介護支援センター協議会セミナー」で講演をします。大会参加の大分の方々、九州の方々、心を込めてお話しをさせていただきます。お目にかかるのを楽しみにしています。
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本当のところ
  藤川幸之助
胃瘻から栄養を入れることができないので
高カロリー輸液を
母に中心静脈から入れるかどうか
医師に尋ねられた
「母はもうくたびれています
 もうゆっくりさせたいので
 入れないでください」
と、私は言って帰った
これが私の本当のところ

するとそう延命というわけでもないし
入れていいんじゃないかと
妻が言い
兄も
医者をしている兄の娘も
入れるのに一票投じた
本当は私の一存で
母を殺していいのかと思っていたので
安心したというのも本当のところ

静脈から高カロリーを入れて
元気になっても
この肺の状態では一、二ヶ月後肺炎になって
またこんな状態になるのは目に見えている
母を生かし続けるのに
罪のようなものを感じた
実はこれも本当のところなんだ

いつもは不携帯の私が
便所に入るときも
風呂に入るときも携帯して
夜中何度も何度も枕元の携帯電話を確かめる
母の死にびくびくするこんな日々が
また続くのかとも思った
「私はもうくたびれています
 もうゆっくりしたいので
 入れないでください」
と、私は言いたかったのかもしれない
これもまた本当のところ

©FUJIKAWA Konosuke
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      生かされていく】(致知出版)p165-p167より
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