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■ 「スピード」 (詩集 『マザー』ポプラ社より) 藤川 幸之助
 
■ 音楽 家高 毅
    風の剣
(Sword Wind 風の剣に乗せてより)
■ 語り 村山 仁志
■ 構成 松本 篤彦

秋茜が飛んでいた
秋の日
父危篤の知らせを聞き
猛スピードで車を走らせた

フロントガラスに当たって
秋茜が潰れていく
それでも私は急いだ
潰れて潰れて
前が見えないくらい
ぐちゃぐちゃに潰していく
前が見えなくなったので
車を止めて<命>をふき取る
そしてまた急ぐ
病院に着いてみると
もう父も
潰れてしまっていた
猛スピードですぎた自分の人生に
押しつぶされて

ここまで父を急がせた
母がゆっくりと
父の亡骸に近づいてくる
母がふっと
死から上手に遠ざかる
死と程々に距離を保って
上手にふっと死を避ける
おれが先に死んだら
一緒に連れていきたいなあ
と言う父の言葉を知ってか知らずか

秋茜が飛んでいる
秋のある日
父の死を噛みしめて
ゆっくりと車を走らせた
秋茜がスイスーイと
車をよけて飛ぶ
ぶつかることなく
潰れることなく
私の車を避けて飛ぶ

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